明治座の舞台から見える景色 / 清水 英彦

寿曽我対面 工藤館の場
 
十月、本校で研究授業が行われた。授業者は小平教諭。三年生社会科で、明治座の改修を題材に学ぶ授業だった。
明治座は耐震工事を施す費用があったが、明治座にかかわる方々には、何とか、昔から親しまれてきた姿をそのまま残したいという強い願いがあった。そのために必要な費用は、一億二千万円。加子母では、寄付などで、二千万円の資金を集めていた。それだけのお金を集めるには、たいへんな努力を要したことと思うが、必要な金額には遠く及ばない。そんな状況の中、加子母の人々は、どのように明治座改修にこぎつけたのか? 話し合いを重ね、県や市に働きかけ、予算を引き出すために奔走する加子母の人々。生徒たちは、そんな加子母の方々の姿から、地域のことを人任せにせず、主体的に地方自治にかかわっていくことの大切さを学んだ。
加子母の方々の熱い思いが脈々と受け継がれ、百二十年もの間、大切に、大切に守られてきた明治座。三年生の授業を見て、明治座の維持・管理に携わってきた方々の苦労と努力に頭が下がる思いがした。
その明治座の舞台に、今年も立たせていただける。改修後の杮落しとなる定期公演でもある。幾重にも喜びをかみしめ、わくわく、どきどきしながら、昨年に続き、出演させていただくようお願いした。
今年いただいた役は、朝日奈三郎義秀。台本をいただいて、びっくり。「めっちゃ、セリフ多いし!」「こんなにおぼえられるかな?」「これは大変なことになったぞ!」・・・様々な思いが頭をよぎった。それに、ちょっと変わったセリフもある。「かっちけねえ」「くんさるめえか」「げじげじども」「ぐぜった ぐぜった」「もしゃ おっこたえろ」・・・「おもしろっ!」そんなことを感じながら、セリフを覚え始めた。
録音していただいた師匠のお手本を、毎日繰り返し聞いた。トイレの中には、自分のセリフをコピーして貼っておいた。そうこうするうち、何とかセリフは覚えられたのだが・・・振付の稽古が始まったとたん、ちゃんと覚えたはずのセリフがぶっとんだ。おまけに、振付を教えてもらうごとに、朝日奈には、はでなアクションが多いことも分かってきた。振付に気をとられていると、セリフの声が小さくなって、師匠から、「朝日奈はもっと元気よく!」と声が飛ぶ。セリフに気を付けていると、「もっと大きな動作で!」と指導が入る。「こりゃ、たいへんじゃ!」冷や汗をかきながら稽古する日々が過ぎていった。
こうして迎えた第四十三回公演当日。お化粧をしていただくと、話に聞いていた通りの大きな隈取に、自分でもびっくり! 思っていた以上に、超派手なメーク。「こりゃ、開き直って思いっきりやるしかないな」と、しだいに腹も座っていった。
花道の「七三」に立ち、「朝日奈三郎義秀、ただ今出仕」ぎっしり入ったお客さんからの拍手と歓声。背中がぞくぞくっとなった。場面が進むにつれ、たくさんの拍手とかけ声、笑いを頂戴した。「いい役をいただいたもんやな」演じながら、つくづくそう感じた。
時に笑い、時に真剣に見入るお客さん。暗くて、表情まではよくわからないものの、たくさんの方々が舞台を見て、楽しんで下さっていることを実感する。この時、この場所に立った者でなければ見られない景色、得られない感動。そこに自分が立っている幸せ。
明治座の舞台から見た景色は、何物にも代えられない、最高の宝物となった。 
記事提供:かしも通信