自然と向き合うとき、太古の昔から綿々と続いてきた時の流れを感じる瞬間があり、感受したそれらを、自身と対峙する存在として空間に表現することを毎回の目指すところとしています。大きな動物と向き合っている時に感じるような、静謐かつ圧倒的な存在感と空気感、強い意志を持つ作品を、生み出したいと考えています。そんな作品観を持っている中で今回此処、明治座と出合うことになりました。この場所に来て何よりも、森閑とした空間と、空間に満ちている熱量を、行われてきた幾つもの出来事の積層とでもいうべきものが冷えた空間に熱く息づいているのを肌で感じました。その場所で、自身の今までの作品を振り返る機会を頂けたことを深く感謝いたしております。山と森の大きな時間と空間の中で、またそこで向かい合うこととなる他作家作品たちと自作とを構成する試みになります。

「 VOICE Ⅲ 」は実体を持たない「声」に形態を与えようと試行した木彫です。「森の音」は大きく、また、奥行きのある中吊りの作品です。深い森に抱かれるとき、その奥から聞こえてくるものは自身の鼓動であり、また、へその緒にも見える形態を遡ると再び自身の中の森に還っていきます。
様々なことが起こっている日々の中、ここで今何が出来るかと考えてみています。作家が世の中を知る術は、さほど多くないようにも思っていますが、ここで起こることと丁寧に向き合う事が一つの方法にもなるのでは、と思っています。