2012 坂本 龍一/再び訪れた、かしも明治座で

坂本龍一

119年の歴史のある明治座は坂本龍一さんにはどのように感じられましたでしょうか

昔は隣の東白川村にも芝居小屋が3つあったそうです。芝居好きというか当時は他に娯楽がなかったんでしょう。ただ雨漏りなどもあって、東白川では全部壊しちゃったそうです。その頃は新しいものが良いんだという価値観を日本中がもっていて、古いものの価値が見いださなかったんでしょう。

よくここは保存されて今でも使っているという…。楽屋まで行くと壁に明治とか大正何年という役者さんの落書きがあったりして、そういうものを壊してしまうともう人工的には作れませんから、文化財として出来るだけ長く保存してほしいと思います。

今、サミットをやってる時も裏の田んぼからカエルの鳴き声がね。昼間なのに、夕暮れから夜にかけてじゃないのかなと…。ここじゃ珍しくないでしょうけど東京やニューヨークに住んでると何年もカエルの声なんて聞いた事なかったんで、最近聞いてないってことも忘れていたんで今日聞いてすごく懐かしいなと思いました。風景や山も素晴らしいし、こういう古いものも保存しようと言う自分たちを客観的にみる目も皆さんきっと持ってるんでしょうね。

第16回明治座クラシックコンサートが今週行われるのですが 明治座でクラシックコンサートをやるということについてどう感じましたか?

ビックリしましたよ。ここに入ってくる時に横断幕があって、えー明治座でクラシックやるのって感じでした。ビックリしました。でもまあべつにヨーロッパでも、元々はね、木の小屋でやってたわけですし。

逆に言うと木の小屋なんか他にないんで、貴重かもしれませんね、もしかしたらね。

僕はここで演奏していないので、響きという点ではわかりませんけど、きっといい音がするんでしょうね。

明治座での演奏は音がというよりも心が伝わってくるという感じなんです。

空間が狭いし、お互い顔が見えるからいいんでしょうね。地歌舞伎なんかもそうなんでしょうね。なんかやっぱり場所が持ってる時間の堆積っていうんでしょうかね。それが感じられると思うんですよ。ああいう場所にいるだけでね。それは演奏にも影響を及ぼすと思うんですよ。そういう場所で演奏するって言うのは貴重な体験になると思います。ギリシャは石の文化だけど僕はアテネの2500年前の円形劇場で演奏した事があるけど、やはり凄いものを感じましたね。場所の。歴史の時間の堆積と言うか、そういうのは大切ですね。音楽のインスピレーションにも大きく影響を与えると思います。

ぜひ続けてください。

 

2012年3月23日にかしも明治座で調印式

明治座で岐阜県の森林づくりに関する協定調印式が開催され、音楽家の坂本龍一氏が代表を務める森林保全団体「more Trees」と岐阜県との「包括事業連携協定」及び加子母・東白川村森林組合との「森林づくりパートナーシップ基本協定」が締結されました。坂本龍一包括協定は坂本代表と古田岐阜県知事が、パートナーシップ協定は坂本代表と加子母の内木組合長・東白川村の高木組合長が締結しました。

more Treesは

「都市と森をつなぐ」をキーワードに2007年から活動を開始。高知県をはじめ、全国様々な地域で森林づくり活動を行ってきました。一方、岐阜県は「岐阜の宝もの」など新たな観光資源の発掘・育成に力を注ぎ、人にも自然にも優しい新たな旅のスタイル「ウェルネス・ツーリズム」を推進してきました。今回の包括協定により、空気やモノ、人と人との交流の分野で両者が連携し、都市と岐阜の森との交流を推進していきます。また、加子母・東白川村森林組合とmore Treesも岐阜県の包括協定をベースに「森林づくりパートナーシップ基本協定」を締結。協働による森林づくりや、「more Treesの森」から生まれる森の恵みを都市に供給する取組を行っていきます。

「more Treesの森」は岐阜県で11か所目。

坂本代表は当日、調印式の前に加子母地内の森を見学、翌日は木曽ひのき備林と東白川村地内の森を見学されました。 「音楽家がなぜ森林のことをやるのか、とよく聞かれる」と本人が言うように、世界的に有名な音楽家である坂本代表が森林づくり活動に取り組んでいるということ自体驚きですが、まさか加子母の明治座を舞台にこのような協定が結ばれるとは思いませんでした。加子母森林組合と協働で森林づくりを行っていくこと、そして、坂本代表にかしも明治座の空気を感じていただけたこと。加子母にまた新たな風が舞い込みそうです。

(文:日吉 沙絵子)

協力/かしも通信